固有感覚刺激による姿勢改善と運動能力の向上について
抄録
高校軟式野球チの選手達を被験者とし、アプライド・キネシオロジ ー・テクニック(AK)および日本古来の正体術を
行い、身体のバランスを整えたり、手技によって間接に刺激を与え、その前後の体重バランスと走塁タイムを計測する実験を行った。1回目はAKテクニックの刺激のみを使い実験した。2回目の実験では、それに加えて体重バランスが大きく崩れている被験者に対して正体術を行った。実験結果を分析したところ、走塁タイムの改善には体重バランス差、特に左荷可重が関係しているが、それ以外に小脳への刺激や全身のバランスが関係していると考察される。
1.初めに
人は、現在、長い進化の道のりを経て、四足歩行から、左右2本の足で立ち二足歩行している。※1
歩行に対して、構造的には、骨盤の回旋、骨盤の傾き、膝の屈曲と動き、足首の動き、また内因的には、小脳、内耳前庭系、脊髄の問題※2
ひいては、脳脊髄液や血液の流れのバランスによって、影響を受ける。そして、2つの視点を持ち、眼運動系の筋肉と後頭下筋を使ってものを水平に見ることが出来、各固有受容器からの情報を得て、脳幹や小脳の前庭系で統合され、身体全体のバランスをとっている。しかしその体重は必ずしも、いつも左右の両足に均等にかかっているとは限らない。重心のアンバランスが起こっていることがある。
とすると、いろいろなスポーツをするとき、そのことによって、せっかく本人が日々のトレーニングや練習で培った筋力やパフォーマンスの技量を、充分に発揮できていないということはないだろうか。もちろん、その競技をする為に必要で特別な筋肉をつける、などのアンバランスは別にして、それ以外の場合、そのアンバランスを正すことによって、パフォーマンスの向上、記録の更新の可能性があると考えられる。
カイロプラクティックのテクニックのひとつであるAK(Applied Kinesiology)に足関節(距骨)を四指で挟み少し牽引をかけながら距腿関節に刺激を与えるテクニック※3がある。足関節に関わる固定受容器からの固有感覚刺激の情報を脊髄小脳路(spinocerebellar pathway to cerebellum※3)を通じて小脳に伝え、静的、動的バランスを取る機能を利用したテクニックである。
また、日本古来の正体術(高橋迪雄式※4)に全身の歪みを治すテクニックがある。人の骨格の歪みを見つけ出すポイントとして、頭蓋、肩甲骨、骨盤に着目し、それらの歪みを本人の顔の向き、四肢の位置と自重を利用して、正していく。これも同じく、固有受容器からの固有感覚刺激の情報を脊髄小脳路を通じて小脳に伝え、全身のバランスを取る機能を利用したテクニックである。
これらのテクニックを用いて、左右の体重のバランスをどれだけ整えられるか、また、それによってスポーツのパフォーマンスはどのように変化するかを検証してみた。
(2.実験に続く)